ニュースの概要
BYDの高級ブランド「仰望(ヤンワン)」の電動ハイパーカー「U9 Xtreme」が、アラブ首長国連邦アブダビの閉鎖された道路で時速503.17kmを記録した。国際自動車連盟(FIA)とギネス世界記録が計測を認定し、量産車として、また量産の電気自動車として初めて時速500kmの壁を越えた。車両は4基のモーターを積み、合計出力は約3,000馬力に達する。電圧を1,200Vに高めた電気設計と、同社の「ブレードバッテリー」の高出力版が支えている。かつて内燃機関の独壇場だった最高速の記録が、ついに電気の側へ移った形である。
引用元: BYDの高級EVハイパーカーが量産車初の時速500km超を達成(Electrek)
分析・見解
500kmの壁を破ったのは、モーターより電池だった
最高速の記録というと、エンジンやモーターの出力ばかりが語られやすい。しかし今回の核心は、電池が大電流を安定して出し続けられた点にある。3,000馬力は電力に直すと約2,200キロワットである。これは一般的な家庭の契約容量の数百倍にあたる。この電力を数十秒にわたり送り続けるには、電池が熱で劣化せず、電圧も落ちないことが条件になる。
電圧を1,200Vに引き上げたのも要となる。同じ電力なら、電圧が高いほど電流は小さくて済む。電流が小さければ配線は細く軽くなり、発熱も減る。ポルシェ・タイカンの800Vが高級EVの標準になりつつあるが、BYDはその1.5倍の水準を量産車に載せたことになる。
空気抵抗との戦いで見える、電気ならではの利点
時速500kmでは、空気抵抗が速度の2乗に比例して増える。時速250kmから500kmへ倍にすると、抵抗は4倍、必要な動力は8倍になる計算だ。ブガッティ・シロンSSが2019年に出した490.48km/hは、16気筒エンジンの冷却や吸気に大きな空気の通り道を要した。
電気自動車は冷却の取り入れ口を小さくでき、車体をなめらかに作りやすい。さらに4つのモーターが車輪ごとに力を細かく配分できるため、高速域でも車体が不安定になりにくい。内燃機関では難しい制御を、電気は得意とする。
記録の中身は宣伝だが、効いてくるのは別の場所
一般道では使えない速度である。それでも、この種の記録には実用的な波及がある。1,200V設計や高出力電池の部品、冷却技術は、後に量産の上級モデルへ降りてくる。かつてフォーミュラ1の技術が市販車に流れたのと同じ構図である。
もう一つの独自の見方を挙げたい。注目すべきは「中国メーカーが記録を取った」こと自体より、「欧州の老舗が守ってきた最高速という象徴の席が、電池を内製できる会社へ移った」点である。電池を自前で作れる企業は、モーターや制御の改良を電池の仕様変更と同時に進められる。開発の速さで、部品を買い集める側は不利になる。
次に問われるのは、速さの先にある価値の作り方
ハイパーカーは年に数百台しか売れない。BYDにとって利益の柱ではない。狙いは、ブランドの格上げと技術力の証明にある。同社は低価格帯での強さを築いたが、高級車では「安い車の延長」という見方が残る。500km超の記録は、その印象を塗り替える強い材料になる。
今後は、ライバルが同じ土俵に上がるかが焦点となる。ロータスやリマックなどが応じれば、電気ハイパーカーの速度競争が本格化する。一方で、記録には閉鎖道路と整備された路面が前提となる。実際の購入者が体験できる速さとの隔たりも、冷静に見ておく必要がある。
ビジネスへの影響
高級EV市場の序列が、技術力で書き換わり始める
高級車の価値は長く、歴史や伝統で語られてきた。しかし最高速や充電速度のような数字で比べられる分野では、新興勢力が追いつきやすい。今回の記録は、ブランドの歴史が浅くても技術の裏付けがあれば上位に入れることを示した。高級車や関連部品を扱う企業は、自社の強みが「歴史」だけに偏っていないか見直す時期にある。
自社の調達や投資に、何を持ち帰れるか
自動車関連の部品メーカーにとって、1,200V化は大きな機会であり脅威でもある。高電圧に対応した絶縁部品、コネクタ、冷却部材の需要が伸びる。逆に、400V前提の部品だけを作る会社は、数年で出番が減るおそれがある。
また、輸入車ディーラーや中古車事業者は、中国ブランドの上級モデルの流入を前提に、整備体制と下取り査定の考え方を準備したい。電池の状態を数値で説明できる体制が整っているかどうかが、顧客の信頼を左右する。
高級EVの動向は、本サイトの高級EVの解説や電動化の特集とあわせて継続的に確認し、自社の事業計画に反映してほしい。